読書メモ:宮部みゆき(現代小説)

更新日:2022年05月20日
カテゴリー:読書 


魔術はささやく

接点のない二人の若い女性の自殺から物語が始まる。 そして、3人目がタクシーにはねられて死亡する。 タクシーの運転手が逮捕されるが、女性が赤信号を無視して飛び出してきたと主張する。 3人の死は偶然か、仕組まれたことか?

謎を追うのは、タクシー運転手の甥の高校生、日下守。 守は、公金を横領して失踪した父を持ち、母と二人で肩身の狭い生活を強いられて来た。 その母が急逝したため、叔母夫婦が住む東京に引き取られて来たのだ。 守は優れた鍵師の技術と推理力を働かせ、連続死の謎を解いていく。

と書くと、B級っぽいミステリーのように思われそうだが、そこは宮部みゆき、さすが読み応えがある。 (2022年5月20日)

蒲生邸事件 上下

タイムトラベラーものなのでSFと言って良いだろう。 しかし、そこは宮部みゆき、人間模様はちゃんと描かれており、心理描写もしっかりしている。

大学受験に失敗し、予備校の入学試験を受けるため上京した尾崎孝史(おざきたかし)が主人公。 泊まっているのは平河町一番ホテル。 戦前は陸軍大将の蒲生憲之(がもうのりゆき)の屋敷、すなわち蒲生邸が会った場所だ。 そのホテルで、孝史は、まるで光を吸い込むような暗さを漂わせた中年男に会う。 そして、蒲生憲之の幽霊が出るとの噂を聞く。 その矢先、ホテルが火事になり、炎にまかれる孝史が救い出された先は、戦前の蒲生邸だった。 (2022年5月11日)

杉村三郎シリーズ

1 誰か Somebody

2 名もなき毒

3 ペテロの葬列

4 希望荘

杉村三郎シリーズの4作目。離婚し、会社を辞めて、探偵になってからの短編集。4つの話が入っているが、書名にもなっている「希望荘」が一番よく練られている。ところで、このシリーズは存外にえぐい話が多いが、この本はだいぶ大人しくて読みやすかった。

5 昨日がなければ明日もない

杉村三郎シリーズの5作目。絶対零度、華燭、昨日がなければ明日もないの3篇が収録されている。

「絶対零度」の依頼者は筥崎静子という品の良い五十代後半のご婦人。 嫁いだ愛娘が自殺未遂を起こして入院している。 しかし、その夫から、自殺の原因は毒親にあると言われ、娘に会わせてもらえない。 杉村の丁寧な調査で、隠された事件が明らかになって行く。

「華燭」の依頼者は杉村の事務所兼自宅がある町内会のご婦人。 依頼の内容は、姪の結婚式に一人で出席する中学生の娘の同行。 ところが、無事に会場へ着いたが、披露宴は一向に始まらない。 しかも、同じフロアで開催される予定の別の披露宴の方もなぜか始まらない。 殺人も強盗も起きない、単なる不思議な騒動だが、最後に杉村の推理が冴える。

表題作「昨日がなければ明日もない」の依頼人は中学生の娘を持つシングルマザー。 別れた元夫が引き取った息子が殺されそうなので調査してくれとの依頼。 しかし、この依頼者は関わった人たちが皆迷惑するような「ダイナミックに厄介な女性」で、杉村も辟易するが、根っからの優しさから仕事を受ける。 依頼者に思い込みだと分からせるために、綿密な調査を進めるが・・・