読書メモ:劉慈欣(立原透耶 監修、大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳) 三体

更新日:2021年12月07日
カテゴリー:読書 


三体

冒頭から文化大革命の血生臭い話に辟易。 その後は古いSFのようなもったいぶった展開。 しかも今更VRゲームとはちょっと陳腐。 もうギブアップしようかなあと思っていたが・・・なんと・・・

中盤からの展開が絶品。 まさかそっち(ネタバレになるので言えないが、とにかくスケールがでかい)に話が広がるとは・・・確かにヒューゴー賞を取るだけのことはある。 2020年発行予定の第2巻が楽しみ!

三体II 黒暗森林 上巻

第1巻を読んだときは、初めちょろちょろ、中ぱっぱ、でも最後には絶品の釜のご飯が炊き上がった、というような作品だった。 この余韻が強烈で、1年経っても残ってたので、第2巻はすぐにのめり込めた。 しかも、第1巻の初めの方は歴史小説っぽくて、後半になってやっとSF調になったが、第2巻は初めからSFっぽい。

ここからは、ちょっとネタバレになるのでご用心。 第1巻を読んでからの方が良いかも。

三体世界を出発した大艦隊が太陽系に到達するまで、四世紀。 地球では迎え撃つための準備を始める。 しかし、既に地球を監視し、妨害を始めている智子(ソフォン、極微コンピュータ)を欺く必要がある。 そこで立てらたのは面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)。 特権を与えらた4人の面壁者(ウォールフェイサー)が4百年後に勝利するための施策を考えるが・・・ (2020年9月24日)

三体II 黒暗森林 下巻

冬眠から覚醒した壁面者たちを中心に話が進む。 特に、約二世紀の眠りから目覚めた羅輯(ルオ・ジー)や章北海(ジャン・ベイハイ)がキーとなる。

読みはじめは、(期待感もあるのだろうが)ちょっと心配になる書き振り。 例えば、テクノロジーの進歩とそれへの羅輯の反応はふにゃふにゃしているような気もする。 無限エネルギーが完成したと勘違いする件とかいらんのでは。 また、第1巻のような重厚さはあまり感じられなく、スペースオペラっぽい雰囲気さえある。

しかし、全体を通したストーリーの一貫性、よく練られたプロットはさすが。 第1巻に始まる葉文潔(イエ・ウェンジエ)の存在、そして宇宙社会学の公理は作品の土台を成す。 特に後者に関連した定理である猜疑連鎖と技術爆発はなかなかのインパクト。 本作のすべての要因であり、第2巻の結末に直結する。 何より、客観的に考えれば、別な解釈や前提への疑問がいくらでも出てくるが、読んでいる時はその疑問を挟ませない展開のスムーズさとノリはSFとしては必須な要素だろう。

来春に予定される第3巻がとにかく楽しみ。 おそらく映画かされるだろうが、変な配役やずれた世界観にならないことを祈る。 (2020年9月28日)

三体III 死神永生

個人的には残念な作品だった。 以下、あくまで個人の意見ということで。

第2巻は第1巻とテイストが変わっていたが、第1巻と同様、物語に深みがあり重厚だった。 第3巻も第1巻・第2巻とはだいぶテイストが変わり、宇宙ものSF感が前面に出ている。 残念ながら、物語の深みは第1巻や第2巻に比べるとだいぶ感じられない。 第1巻と第2巻では著者の哲学がしっかり感じられたのだが、第3巻ではストーリ展開が優先されて、重厚さがない。 この手のSFであれば、アシモフの方が格段にうまい。 第1巻と第2巻の余韻があったから読み進めたが、もしこの巻だけであれば途中でギブアップしていただろう。

第3巻の主人公は程心(チェン・シン)。 第2巻の主人公だった羅輯(ルオ・ジー)も要所要所に登場する。 影の主役と言っても良さそうなトマス・ウェイドも第2巻に引き続き登場する。 しかし、羅輯もウェイドも描き方が単純すぎて、第2巻ほどのかっこよさがない。 相棒の艾AAの描き方も雑。 新たな登場人物達は、登場の仕方も終わり方も唐突で物語に深みを持たせられてない。

三体は第2巻で完結していたほうが、SF小説としての完成度は高かったと思う。