読書メモ:今村翔吾 くらまし屋稼業シリーズ

更新日:2023年08月27日
カテゴリー:読書 


1 くらまし屋稼業

久々に時代小説を読んだ。 時は江戸時代。 大金さえ払えば、誰でも失踪させてくれる裏家業の話。 イメージしやすいトリックとテンポの良い文体で、あっという間に読み終わる。 シリーズ化する気満々の終わり方はまさにエンターテインメント。 (2020年5月26日)

2 春はまだか

シリーズ第2巻。 今回の依頼主はお店奉公のお春。 当然、依頼料は持ってないが、堤平九郎は引き受ける。 自身の過去の悲劇に絡むようだ。 しかし、くらまし屋の掟は絶対のはずで、それを決めた平九郎自ら破ったため、仲間割れ。 でも・・・ネタバレになるので控えるが、展開が安直では。 まあ、エンターテイメント時代小説と銘打っているだけあって、ストーリーがわかりやすく、適度にハラハラさせられ、気楽に読めて良い。 終盤での次回作以降への謎の残し方もテレビドラマっぽいし。 (2020年7月12日)

3 夏の戻り船

今回の依頼人は著名な本草家、阿部将翁。 将軍吉宗直々の要請で採薬使を努めた程の博識だが、今は隠居の身。 八十八歳、余命短しと悟り、兼ねてからの夢にしたがって、陸奥に行きたいと願う。 しかし、幕府や謎の集団「虚」の邪魔が入り、そこでくらまし屋の出番となる。

クライマックスである幕府の隠し薬園からの脱出のトリックはなかなかよく練られていて、なるほどと思わせる。 また、主人公の堤平九郎をはじめとした尋常でない強さの剣士たちの立ち回りも適度に想像力を掻き立ててくれる。 そして、これまでは重要な場面でちょっとしか登場していなかった篠崎瀬兵衛が、今回はだいぶ長く活躍し、今後の展開を期待させてくれるなど、今回はだいぶ読み応えがあった。 (2020年8月12日)

4 秋暮の五人

盗賊の残党が、頭の残した1万両を手にするために、くらまし屋に迫る。 前半は黒幕の正体を探りながら話が進むが、黒幕を隠すためのトリックは結構容易にわかってしまい、ちょっと物足りない。 それでも、いつもの弱者をくらませるのとは違うストーリーで、新鮮味がある。 終盤の展開はなんとなく浅かったり、都合の良い気がするが、娯楽小説としては安心して読み進められる。

謎の組織「虚」の出番は今回はほとんどないのかなと思っていたら、最後にうまく持ってきて、堤平九郎の拐かされた妻子へつなげるところは流石。 まさに連続ドラマ風で、次巻に引っ張ってくれる終わり方。

蛇足になるが、落語のマクラのような導入はいつも良い味を出している。 (2020年9月17日)

5 冬晴れの花嫁

今回の依頼人は老中松平武元(たけちか)。 そして、一緒にくらますのは御庭番の頭の曽和一鉄。 御庭番で思い出すのは第3巻。 そう、初めの方は3巻に繋がる。 さらに進むと、第4巻のくらましが絡んでくる。 シリーズを連続して読んでいる読者の心をうまく揺さぶるあたりは流石。 そして、超有名人、田沼意次(の若い頃)が登場する。 一般的には悪役のイメージが流布している田沼だが、実は人物であるとの描き方も上手い。

登場人物、くらましを依頼してきた背景とその結末、くらましのトリック、既巻との繋がり、どれをとってもこのシリーズの最高傑作だと思う。 すぐにでも読んでもらいたいが、既巻を読んでからの方が良さがわかるので、まずは第1巻! (2020年9月19日)

6 花唄の頃へ

今回の依頼人は婿養子が決まっている旗本の次男坊。 無頼の輩で、自らの悪事が招いた恨みで命を狙われている。 しかし、恨みを買いすぎていて、暗殺者がなかなか分からず、くらまし屋も手こずる。

第5巻の序章に出てきた貧しいが幸せそうな祖父と孫娘が本巻でも登場する。 重要な役割を演ずるが、この持っていき方は流石。 また、炙り屋こと万木迅十郎(ゆるぎじんじゅうろう)の人となりもうまく描いていて、新たな展開を予感させる。

第5巻はこのシリーズの最高傑作と書いたが、本巻もなかなか良い。 巻を追うごとに安定した作品になっていく気がする。 (2020年9月20日)

7 立つ鳥の舞

今回の主役は赤也。 三人からなるくらまし屋の一人で、変装の名人。 実は4年前までは優れた役者で、名の知れた芝居一座の濱村屋の次の座長になると期待されていた男だった。 しかし、思うところがあり、くらまし屋の堤平九郎(つつみへいくろう)に依頼して過去を捨て去り、くらまし屋に加わった。

濱村屋の今の主人は赤也の義弟の吉次だが、まだ若いこともあり、赤也の兄弟弟子であった将之介が取り仕切っていた。 人気に翳りが出始めた濱村屋を立て直そうと、将之介は空米取引に手を出し逆に大損をしてしまう。 そんな濱村屋にさらなる災難が降りかかる。 今をときめく人気一座の天王寺屋との芝居合戦である。 負ければ、濱村屋が作り出した演目の娘道成寺を今後演じることができなくなる。

濱村屋を救おうとする赤也。 それを邪魔する虚(うつろ)の九鬼段蔵。 くらまし屋の仲間や御庭番、道中同心の篠崎瀬兵衛らを巻き込んで話は進む。 (2022年8月10日)

8 風待ちの四傑

今回の依頼人は上津屋(こうづや)という旅籠の主人、陣吾。 くらましたいのは陣吾の幼馴染で、呉服屋の大店である越後屋の奉公人、比奈。 比奈は、越後屋の大番頭である富蔵の秘密を知ってしまい、命を狙われていた。

このシリーズでは、堤平九郎の宿敵である炙り屋こと万木迅十郎や謎の集団「虚」の刺客である榊惣一郎(さかきそういちろう)が目立つが、今回もちゃんと出てくる。 ただ、万木は間接的ではあるがくらまし屋と共闘することになる。 また、榊はくらまし屋とは関わらないが、江戸でない場所での活躍が描かれる。 さらに、堤の目的である妻子探しを手伝ってくれそうな仲間が加わる気配が終盤にある。 (2023年08月27日)