読書メモ:その他

更新日:2023年12月29日
カテゴリー:読書 


相沢沙呼 medium 霊媒探偵 城塚翡翠

推理小説作家の香月史郎(こうげつしろう)が若き女性霊媒の城塚翡翠(じょうづかひすい)に出会うところから物語は始まる。 二人が関わることになるいくつかの殺人事件で、翡翠は霊視により殺害の様子や犯人を知る。 しかし、霊視から得られた情報は証拠にはならないため、それらをヒントに香月が論理的に証拠を積み上げていく。

世間知らずのお嬢様を前面に出した翡翠の描写がわざとらしく感じたが、最後のどんでん返しでなるほどと思わせる。 (2022年11月15日)

青柳碧人 むかしむかしあるところに、死体がありました。

誰もが知ってる日本の昔話を題材にして、新たに作った殺人(殺魚? 殺鬼?)事件ミステリーの短編集。 一寸法師、花咲か爺、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎が別な視点で描かれており、面白いアイデアだなと感心させられる。 でも、結構グロい。 まあ、今、テレビや絵本で語られている日本むかし話はだいぶオブラートに包包まれているが、元々は残酷な話や描写が多いから、原点復帰か!? (2020年9月13日)

阿津川辰海 紅蓮館の殺人

嘘に敏感で、その理由を推理する探偵・葛木輝義(かつらぎてるよし)とそのホームズ役の田所信哉(たどころしんや)。 著名な作家の財田雄山(たからだゆうざん)の屋敷を訪れる途中、山火事に巻き込まれる。 なんとか屋敷にたどり着いたが、山火事の勢いはまして、孤立する。

同じく屋敷に避難してきたものたちと脱出を試みる最中に、財田の孫娘が惨たらしい死を迎える。 事故か事件か?

館が焼失するまでの限られた時間の中、居合わせた元探偵と葛木たちの推理と山火事からの脱出が進んでいく。

泡坂妻夫 奇術探偵曾我佳城全集 講談社

元奇術師の未亡人が一見不思議な事件を推理していく短編集。 22編入っているので書籍としては分厚いが、各話は20数ページ。 題材も良いし、手品絡みの仕掛けも凝っているが、短すぎてちょっと物足りない。 と言うことでギブアップ。

石持浅海 Rのつく月には気をつけよう 祥伝社

同窓生3人の飲み会に毎回ゲストが招かれる。 ゲストが持ち込む日常で起きている事件(?)を飲み会中に解決する、アームチェア・ディテクティブもの。 だが、私には合わず半分程度読んでギブアップ。 探偵役をもう少し掘り下げて欲しかった。

歌田年 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人

2020年の第17回『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作品。

主人公の渡部(わたべ)は、出版社などに紙を卸す紙商で、大手から独立して個人事務所を構えている。 肩書きの一つが紙鑑定士。 「紙鑑定の事務所」を「神探偵の事務所」と勘違いしてやって来た客から浮気調査を頼まれてしまったのが話の始まり。 鋭い洞察力を持つフリーのプロモデラー、土生井昇(はぶいのぼる)の協力を得て、難事件に立ち向かう。 ちなみにモデラーとは模型を作る人のことだそうだ。

現場を調べるのは渡部で、土生井は安楽椅子探偵という役割分担。 推理はちょっと突飛だし、手がかりも都合よく見つかり過ぎる気もするが、テンポよく進むストーリーがこれはこれで良いと思わせる。

小野寺史宣 食っちゃ寝て書いて

小説家の横尾成吾と編集者の井草菜種のそれぞれの目線でストーリーが展開していく。 目線が変わると読みづらくなる場合もあるが、本書では月毎に交互に切り替わっていくのでスッキリしている。

横尾の手持ち企画の小説がボツになり、担当編集者が代わり、気を取り直して良い本を作っていくまでの1年間の過程が描かれる。 何気ない日常生活が主なので起伏がなさそうな印象を受けるが、途中途中でキャラがはっきりした脇役が登場して適度にスパイスを聞かせているので、飽きずに読める。

誰にでもお勧めできる良書だな。 (2020年8月12日)

垣谷美雨 うちの子が結婚しないので

縁遠い娘を心配して親が婚活。 現代の結婚事情を浮き彫りにしてくれのだと思われる小説。 なぜ予想っぽい書き振りかと言うと、48ページでギブアップしたので。 文章は平易で読みやすいし、面白く展開していくのだろうが・・・昼ドラっぽくて合わなかった。 (2020年3月19日)

梶よう子 三年長屋

古川左衛門(ふるかわさえもん)は亡き父の跡を継ぎ、東国の小さな藩の江戸城府で作事方(さじかた)を勤めていた。 ある時、横領の証拠を見つけて上役に相談したが、親父どののように捨て置けと言われ、我慢できずに妻子を連れ浪人となった。 貧困の中、妻は流行病に罹り死に、一人娘の美津(みつ)は祭り見聞に行って行方不明になってしまった。 その後、お梅と捨吉と出会った古川は、武士を捨て、左平次と名前を変えて、お梅が家主の三年長屋の差配になった。 その長屋の祠には河童が祀られており、三年住むと願いが叶うと言う。 左平次は三年長屋に住む癖のある店子たちにお節介を焼きながら、日々の暮らしを取り戻していく。 (2023年05月05日)

木元哉多 遺産相続を放棄します

貧しい家庭で育った景子は奨学金とバイト代で通っている大学で、元七星重工の総帥一族の長男榊原俊彦と出会い、卒業とともに結婚した。 玉の輿に乗ったつもりでいたが、実は榊原家は没落の一途をたどっており、俊彦も仕事をすぐ辞めてしまう生活力のない男だった。 そんな結婚の7年目、俊彦の祖父の道山が亡くなり、父の昌房も余命が短いことがわかり、俊彦に億を超える遺産が転がり込みそうになる。 ところが、俊彦の姉の志穂の策略に嵌り、俊彦は遺産相続を放棄してしまう。 なんとか遺産を手に入れようとする景子は衝動的に志穂を殺害してしまうが、その死体が忽然と消え失せる。 死体を隠したXは誰なのか? 何が目的なのか? (2023年07月25日)

呉勝浩 爆弾

JR総武線中野駅近くの野方警察署の取調室で、等々力功(とどろきいさお)刑事から取り調べを受けているのは、スズキタゴサクと名乗る49歳の男。 酔っ払って酒屋の自動販売機を蹴りつけた上、止めようとした店員を殴り、連行されてきた。 等々力は大した事件でないと高をくくっていたが、スズキは自分には霊感があると言って都内で起こる爆発事件を言い当てていく。

半分以上は取調室内のやりとり。 全体的に冗長な印象を持った。 文章ではなく、会話が。 途中、何度か挫折しそうになったが、しっかり練られてた構成とストーリー展開でなんとか最後まで読み切った。 終盤は予想通りどんでん返しが用意されている。 (2023年05月07日)

小林武彦 生物はなぜ死ぬのか

著者は生物学者。 天文学の話から始まり、生物学の面白さに繋げていく。 まず生物はなぜ誕生したのか、そしてなぜ絶滅するのかが進化の観点から語られる。 生物がどのように死ぬのか、なぜ死ぬのかと進んで行く。 文体は読みやすく、説明も丁寧なので、最新の生物学の知見も理解しやすい良書である。 終盤では哲学的な話や著者の個人的な意見が多い気がするが、押し付けがましくはない。 (2023年08月25日)

坂上泉 インビジブル

久しぶりに骨太の物語を読んだ。 舞台は第二次世界大戦中の満洲と戦後間もない大阪。 二つの時間が交差しながら話は進む。

前者の主人公は岐阜の貧しい寒村の小作農の三男坊。 満洲に渡り一時は成功するが、戦争に翻弄されていく。

後者の主人公は国家地方警察の守屋と大阪市警視庁の新城。 今で言えば、守屋はキャリア警察官で、新城は所轄の新米平刑事。 麻袋を頭に被せられた連続殺人事件を追う。 新城は無理やり守屋とコンビを組まされ、いやいや捜査を進めていくが、次第にお互いを認め始める。 「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」の名セリフの刑事ドラマを思い出させる構図だ。

戦争で人生を狂わされた人たち、戦後の混乱をたくましく生き抜く人たち、そして現在の大阪の街につながる原点も描かれている。

桜坂洋 All You Need Is Kill

トム・クルーズ主演のハリウッド映画の原作。

宇宙からの侵略者ギタイに立ち向かう人類。 劣勢が続く中、軍に入隊したばかりのキリヤ・ケイジは初陣で戦死する。 しかし、気がつくと出撃前日に時間が戻っていた。 戦死と出撃前日の時のループを繰り返しながらキリヤは戦闘力を上げていく。

なお、映画ではギタイの正体は描かれていなかったと思うが、原作ではしっかり説明されていて面白い。 (2023年11月19日)

新川帆立 元彼の遺言状

第19回『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作。

主人公は定番の若くて美人のエリート弁護士、剣持麗子。 冒頭でいきなり、プロポーズの婚約指輪が安すぎると、男を罵る場面から始まる。 プライドが高く、拝金主義で、キツい性格をうまく印象付けて、読者を引き込んで行く。

若くして死んだ大富豪の元彼のキテレツな遺言状が更なる殺人を呼び、麗子は巻き込まれていく。 そして、その謎解きを通して、自分自身も見つめ直していく。

登場人物が多過ぎて、描き方が単純な感じを受ける。 また、それぞれのキャラクターをわかりやすくしようとし過ぎて、説明がくどい気もする。 しかし、話のテンポがよく、謎解きも込み入っていないので、読みやすいミステリーだ。 (2022年1月18日)

染井為人 悪い夏

物語のキーワードは生活保護費の不正受給。 舞台は千葉県の船岡市で、主な登場人物はケースワーカー、不正受給者、ヤクザ。 ケースワーカーは、真面目で気弱な新人の佐々木守、すぐ仕事をサボるいい加減な先輩の高野洋司、正義感が異常に強そうな有田有子。 そして、不正受給者は、責任を押し付けられて証券会社をクビになった山田吉男、一人娘と一緒に暮らすシングルマザーの林野愛美。 そこに新宿から船岡に流れてきたヤクザの金本龍也が加わり、生活保護の制度を悪用した犯罪にみんなが巻き込まれて行く。 (2023年09月02日)

高瀬隼子 おいしいごはんが食べられますように

二谷(にたに)と押尾(おしお)は、食品などのラベルパッケージの製作会社の営業部の同僚。 二谷は入社7年目の男性社員で、押尾は入社5年目の女性社員。 二人の心の声が淡々と交互に語られていく形で、物語は進む。 物語と言っても、特に事件や大きな出来事があるわけではない。 普通の日常、特に仕事上の人間関係の話。 人間関係の中心には入社6年目の女性社員の芦川(あしかわ)がいる。 彼女は心身ともに弱々しい、部署のみんなから守られている存在。 そんな芦川への二谷と押尾の複雑な思いが交差する。 大きな起伏のないストーリーだが、妙に惹き込まれる。 ただ、読後の後味はあまり良くない。 (2023年4月29日)

知念実希人 天久鷹央の推理カルテ

天才的な診断能力を有する女医、天久鷹央(あめくたかお)。 天医会総合病院の統括診断部長として、摩訶不思議な「病」を診断し、事件を解決していく。 いわゆるライトノベルなので、登場人物はアニメのキャラっぽい。

津村記久子 浮遊霊ブラジル

派手ではないが、ちょっと驚かされたり、ちょっと生き方を考えさせられたりするような物語の短編集。 ゆっくりしたペースが心地よい感じもするが・・・ゆっくりし過ぎで飽きそうにもなる。 (2020年4月14日)

砥上裕將 線は僕を描く 講談社

水墨画という一見地味な題材を扱っている割には飽きさせない。 主人公の恵まれた才能や内面の変化(成長)はちょっと出来過ぎな感はあるが、くどくはなく嫌味にも感じないので、気持ちよく読み進められる。 一つのことに没頭してみようかなと思わせる一冊。 (2020年5月23日)

朝永理人 幽霊たちの不在証明 宝島社

高校の文化祭。 出し物のお化け屋敷で女子高生が殺された。 トリックを見抜き、犯人を探し出す同級生。 文体が軽すぎて、何度も他の本に移ろうと思ったが、トリックが気になって結局最後まで読んでしまった。 さすがは『このミス』大賞の優秀賞作品。 (2020年5月23日)

豊田巧 駅に泊まろう!

東京で居酒屋チェーンの店長をしていた桜岡美月。 ブラック企業に辞表を叩きつけ、そのままグラングラスで北海道へ。 そして、祖父が遺してくれたコテージで、オーナーとしての生活が始まる。

お約束通り、コテージの従業員や客との触れ合いがドラマを作っていく。 ちょうど良い加減のほのぼの感だが、若干不要ではと思わせるエピソードが入る。 続編を考えての伏線なのかな。 (2021年1月16日)

永井紗耶子 商う狼 江戸商人杉本茂十郎

老中水野忠邦(みずのただくに)が札差の堤弥三郎(つつみやさぶろう)を屋敷に呼び出し、毛充狼(もうじゅうろう)について尋ね、弥三郎が昔話を語るように物語は進んでいく。 毛充狼とはあだ名で本名は杉本茂十郎(すぎもともじゅうろう)。 江戸の商いを牛耳っていた商人である。 毛充狼が何を考え、どのように成功していったのかが弥三郎の目を通して語られる。 (2022年11月4日)

永井みみ ミシンと金魚

主人公は安田カケイおばあちゃん。 カケイさんから見た世間が、カケイさんの生きてきた人生を思い出しながら、カケイさんの言葉で語られる。 カケイさんがみっちゃんと呼んでいるデイケアのヘルパーさんたち、兄貴の女だった広瀬のばーさん、息子の嫁など個性的な人たちが登場する。

読んでいて暗くなるし、なんとなく悲しくなる。 そしてみんなに訪れる老いを考えさせる。 が、一気に読んでしまいたくなる小説。 (2023年08月31日)

長浦京 アンダードッグス

よく練られた作品だ。 1997年と2018年が織り交ぜられて進むが、その繋がりが分かりやすいだけでなく、物語に引き込まれる工夫がされている。

1997年の主人公は古葉慶太。 農水省の裏金作りの責任を負わされ、蜥蜴のしっぽ切りにあった元官僚。 マスコミから逃れて引きこもっていたが、今は証券会社で働いている。 ある日、顧客であるイタリア人大富豪マッシモ・ジョルジアンニから特別な依頼を受ける(脅迫されて強制的に)。 それは、マッシモが選んだ仲間たちと共に、マッシモが立てた計画に従って、香港の銀行に隠されているフロッピーディスクと書類を奪うこと。 報酬は大金とかって古葉を陥れた政治家や官僚たちの弱み。 英国から中国に返還される混乱の香港で、ロシアや英国、中国、米国の思惑も絡む中、古葉たちの命をかけた挑戦が繰り広げられる。 ちなみに書名のアンダードッグスとは負け犬という意味で、マッシモに選ばれた人生の負け犬たちが一発逆転を目指すことを示している。

2018年の主人公は古葉瑛美。 スキゾイドパーソナリティ障害を持つ、古葉慶太の義理の娘。 証券会社への不正アクセスで逮捕されるが、亡くなった義父から言われた通り、ある弁護士に電話するとすぐに保釈される。 そして、そのまま香港へ行くことになる。 香港で待ち受けていたのは、1997年の物語の関係者たち。 義父が残した仕掛けを辿りながら、自分の生い立ちが解き明かされていく。

西尾維新 掟上今日子の設計図

立体駐車場が爆破され、その映像がSNSに投稿された。 これは美術館を爆破する予告するデモンストレーションだった。 犯人と疑われているのは、冤罪体質の隠館疫介(かくしだてやすくけ)。 そして、彼の依頼で、トリックを暴き、犯罪を未然に防ごうと活躍するのは、1日で記憶がリセットされる忘却探偵あるいは最速の探偵と呼ばれる掟上今日子(おきてがききょうこ)。

まさにライトノベルの王道と言える設定と展開。 犯罪の動機も、結末も、おまけのエピソードもライトで、潔さを感じる! (2020年8月30日)

西村京太郎 十津川警部 スーパー北斗殺人事件

言わずと知れた鉄道ミステリーの大御所だが、その作品を読むのは実はこれが初めて。 まず驚いたのは文章が冗長というか稚拙なこと。 同じ内容の説明が繰り返されたり、同じ表現が数ページ後に出てきたりする。

ストーリーもイマイチ。 スーパー北斗で毎週合う車椅子の若い女性に、男子大学生が心惹かれ、探偵まがいのことを始めるのは良いとして、出会った人たちが女性のことをベラベラ話してくれるのはおかしい。 初対面の男が、知っている女性のことを聞いてきたら、普通は怪しむだろう。 途中で出てくる共犯者も唐突感があるし、最後の種明かしも安直過ぎる。

この本がたまたま外れだったのだろうか? 試しにもう一冊読んでみるかな。 (2022年1月10日)

原田マハ デトロイト美術館の奇跡

財政破綻に追い込まれたデトロイト市。 長年、市のために働いてきた退職者の年金を守るため、デトロイト美術館のコレクションを売却する案が浮上する。 しかし、それらのコレクションもデトロイト市民の友達であり、友達を追い出すのか? 年金受給者もコレクションも救済する方法は?

文庫本で120ページ程度の中編小説で、登場人物は少なく、テーマも明確なので、すぐに読み終わる。 その分、読み初めの感覚を維持したまま読み切れるので、読後感が新鮮。 (2020年8月22日)

早坂吝 探偵AIのリアル・ディープラーニング 新潮文庫

AIものの小説ということで読み始めたが、半分程度でギブアップ。 文体も、構成も、ストーリーも、人物描写もちょっと・・・。書名を見たときにそんな予感はしたのだが。 2時間、もったいなかった。

早見和真 ザ・ロイヤルファミリー 新潮社

派手さはないが、主人公の心情が丁寧に描写されていて、好感が持てる出だし。 でも、ちょっと短調。徐々に面白くなりそうな予感はしたのだが・・・途中でギブアップ。 (2020年5月24日)

早見和真 ひゃくはち 集英社文庫

昭和のトレンディドラマを思い出させる、青春ものっぽい出だし。 気軽に読めそうで、多くの人はハマるのだろうが・・・1時間でギブアップしてしまった。

東川篤哉 密室の鍵貸します

舞台は千葉の東、神奈川の西にある烏賊川市。 もちろんそんな名前の市があるわけないので、空想の街。 烏賊川市には映画館がないのだが、烏賊川市大にはなぜか映画学科があり、意外と人気を集めている。

その学科の学生、戸川流平が本編の主人公。 映画好きの流平はミステリー映画「殺戮の館」を観るため、映画製作会社に就職した先輩の茂呂耕作(もろこうさく)のアパートのホームシアターにやってきた。 ところが、流平がホームシアターで飲んだくれている間に、茂呂が殺されてしまう。 さらに、その少し前に、近くに住む、流平の元彼女も殺される。 当然、自分が疑われると思った流平は、元義兄の探偵、鵜飼杜夫(うかいもりお)に助けを求める。 そして、流平と鵜飼を追うのは砂川警部と志木刑事。 この4人を中心にユーモア本格ミステリーが展開する。 (2022年4月29日)

堀内都喜子 フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか

著者の主観は入っているだろうが、働き方、休みの取り方や過ごし方など学ぶべき点は多い。 残業しないのがカッコ良い、会議のスモールトークは不要、ウェルビーイング、グッド・イナフなど。 根底にあるのは人や社会への寛容さ。 (2020年3月21日)

森見登美彦 四畳半タイムマシンブルース

舞台は京都の下鴨幽水荘という四畳半の学生アパートで、主な登場人物はそこに住む大学生と友達。 タイトルの通り、タイムマシンが鍵となる小説で、タイムパラドックスネタもよく考えられている。 しかし、SFというよりは、お気楽な学生生活の四方山話の方が前面に出ていて、肩肘張らずに読める。

タイムトラベルと言っても、ハリウッド映画のように大昔や遠い未来に旅するのではなく、ほとんどは1日を行ったり来たり。 時間差が小さいだけに、昨日と明日の自分たちが絡み合って、余計ややこしい。 しかし、うまく書かれているので、こんがらからずに読み進められる。

そして、なんとなく懐かしい学生時代を思い出させてくれる作品だ。 (2020年11月1日)

矢口高雄 釣りキチ三平 作者自選集第1巻

川釣りが6編入っている。 前に読んだのがいつか思い出せないほど、久しぶり。 最近の漫画に比べると、絵が丁寧で、ストーリーの展開も落ち着いていて読みやすい。 混雑が始まった街を離れて、のんびり釣りにでも行ってみるかなあ、と思わせてくれる。 (2020年6月1日)

山田香織 はじめての盆栽 失敗しない8つのコツ

盆栽の入門書。 コロナ禍で生活スタイルが変わり、家にいる時間が長くなったので、ちょっと盆栽に興味を持った。 盆栽というと,サザエさんに出てくる波平さんが大事に育てているような盆栽をイメージしていたが,これは伝統盆栽というもので,木の形の美しさを追求するのだそうだ。 それに加えて、最近では木と草花で風景を作り出す彩花盆栽という新しいタイプの盆栽があり、人気を集めているのだそうだ。 自分の趣味に合うのは伝統盆栽だなあと思いつつ、詳しく具体的に書かれた手入れの方法を読み進めるうちに、大変そうで今はまだ無理かなあと諦めてしまった。

でも、盆栽を始めたい人がいたら、お勧めの一冊だ。

夕木春央 方舟

地下建物に迷い込んだ10人。 地震により入り口が塞がれ、閉じ込められてしまう。 さらに、地下水がじわじわと浸水してくる。 入り口を再び開けるためには、1人が小部屋の中の巻き上げ機のハンドルを回し、岩を落とせば良い。 しかし、その1人は小部屋に閉じ込められ出られなくなる。 9人を助けるために1人の犠牲者が必要なのだ。 そして、閉ざされた地下建物で殺人が起き始める。

終盤になると犯人の予想は付いたな・・・と思わせられるが、最後の最後に大どんでん返しが待っている。 なかなかすごいミステリー小説だった。 (2023年12月29日)

米澤穂信 黒牢城

織田信長に反旗を翻し、有岡城(ありおかじょう)に立てこもる荒木摂津守村重(あらきせっつのかみむらしげ)。 織田の軍勢に取り囲まれてはいるが、難攻不落の有岡城は外からの攻めで安々とは落ちない。 しかし、有岡城を守る武将たちの村重への信頼が崩れれば内部から崩壊するだろう。 その信頼を揺るがすような事件が場内で続く。 それらの難事件の謎を解き明かすのは、有岡城の土牢に閉じ込められている小寺官兵衛(こでらかんべえ)、またの名を黒田官兵衛。 官兵衛は土牢から一歩も出ずに、村重の話だけで真相にたどり着く。

戦国時代を舞台にした歴史小説であるとともに、官兵衛という安楽椅子探偵が登場する推理小説でもある。 (2023年05月24日)

ダグラス・アダムス(安原和見 訳) 銀河ヒッチハイク・ガイド 河出文庫

地球が突然破壊され、一人だけ生き残ったイギリス人がエイリアンと一緒にヒッチハイクで宇宙を旅する物語。 めっちゃ面白い題材だが・・・話の展開がまどろこっし過ぎて、半分くらいでギブアップ。

ジョン・キャリールー(関美和、櫻井祐子 訳) シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相

著者はウォール・ストリート・ジャーナル紙の調査報道記者。 同紙が報じたシリコンバレーで起きた企業不正事件の詳細をまとめた、いわば暴露本。 不正事件の主役は血液検査ベンチャー企業セラノスとその若き創業者のエリザベス・ホームズ。

エリザベスの魅力に引き込まれて多額の資金を提供する投資家達、エリザベスの取り巻き達、不正に気付き正そうとする人達や会社を去る人達など、多くのステークホルダーが登場する。 前半は綿密な取材で得られた情報に基づく推測が展開していく。 後半は著者が登場人物の一人として加わり、変化していく状況を紹介していく。

エリザベスに取材ができていないため、ノンフィクションとしてはバイアスが入っているのではと感じる部分もあるが、行政機関のセラノスへの様々な措置を踏まえると大枠では正しいのでは無いかと思われる。 いずれにせよ、読み物としは面白く、400ページがあっという間に過ぎていく。

ジェフリー・ディーヴァー(土屋晃 訳) オクトーバー・リスト

そういえば、小説を買うと、まず結末を読むという友人がいた。 この小説はまさにそういうタイプにぴったりかもしれない。 なぜなら、小説の冒頭、結末が書かれているから。 そして、物語は時間を逆戻りしながら進んで行く。

主人公はガブリエラ・マッケンジー。 投資顧問会社プレスコット・インベストメンツのビジネスマネジャー。 ボスの違法な株取引に巻き込まれて、娘のサムを誘拐されてしまう。 サムを取り戻すためには、50万ドルと謎のリストが必要。 そのリストの名前はオクトーバー・リスト。 そして、彼女を助けるのはベンチャー投資家のダニエル・リアドン。

ニューヨークを舞台に、ガブリエラとダニエルの逃避行、警察の追跡、誘拐犯の魔の手が進行(逆行?)する。

アントニオ・マンジーニ(天野泰明 訳) 汚れた雪

イタリアの大人気ミステリーシリーズの第1巻 。舞台はイタリア北部、アルプスの田舎町。 ローマの警察から、ある事情で左遷されて来た副警察長ロッコがスキー場での殺人事件を暴く。 文体(翻訳?)はちょっと読みにくいが、登場人物がなんとなく新鮮(馴染みがない?)で引き込まれる。 (2020年7月7日)

ジェローム・ルブリ(坂田雪子 監訳、青木智美 訳)「魔王の島」

2019年9月、トゥール大学のヴィルマン教授の第2回の講義からこの小説は始まる。 講義の題材は、1980年代に起きたサンドリーヌの避難所事件。 その事件は1949年と1986年11月を行き来しながら語られていく。

1949年、終戦を迎えたフランスの海岸に、10人の子供達の遺体が打ち上げられた。 子供達は戦争の痛手を癒すためにノルマンディー沖の小島にある<幸せな世界>というキャンプ場に滞在していたが、<魔王>を恐れ苦しんでいた。 子供達を元気づけるために親元に戻すことになるが、その途中で船が沈み、みんな溺れ死んでしまったのである。 そして、その死も<魔王>に関係しているらしい。

1986年11月、サンドリーヌという記者が祖母の遺品を片付けるために島に渡った。 彼女の祖母シュザンヌは、キャンプ場で子供達の世話をしていたが、子供達の死後もそのまま島に残っていた。 サンドリーヌは島の異様さに気づき、<魔王>の存在を感じ始めていた。 そして、島では新たな死が始まる。

中盤までは、散りばめられた謎がうまくつながっているようで、話に引き込まれる。 しかし、物語が核心に迫っていくと、実はこの話は・・・とひっくり返されてしまう。 謎解き者としては反則な気がする。

ちなみに、最後の方で何度も出てくる「心の避難所」については考えさせられる。 (2023年2月3日)