読書メモ:幡大介 八巻卯之吉 放浪記 大富豪同心

更新日:2022年04月26日
カテゴリー:読書 


1 八巻卯之吉 放浪記 大富豪同心

昨年(2019年)にテレビドラマ化された小説。 珍しくドラマを先に見て、小説を読んでみようかなと思った。

舞台は江戸時代。 主人公は、江戸一番の札差であり両替商の三国屋の孫、卯之吉。 孫の行く末を案じた、三国屋の主人徳右衛門が金にものを言わせて、卯之吉を無理矢理同心にしてしまう。 まさにタイトル通りの大富豪同心である。 では小判をばら撒いて事件を解決していくパターンかと思うと、さにあらず。 しっかりした観察力と推理で真っ当に捜査をしていく。

でも、大富豪ならではのご都合主義も良い加減にちりばめられており、楽しく読める娯楽小説。

2 天狗小僧

江戸の町を騒がせている盗賊、霞ノ小源太一党。 南町奉行所は総出で探索にあたるが、その正体は一向に分からない。 一方、見習い同心の八巻卯之吉は盗賊探索には加えてもらえず、天狗小僧こと七之助の騒動の後始末を押し付けられる。 七之助は大店の跡取り息子だが、神隠しにあったと評判になり、町中が大騒ぎになっていた。 卯之吉のとぼけた、でも深い推理と仲間の調べで、盗賊と神隠しの繋がりが明らかになって行く。

江戸時代の文化や生活に関するウンチクが散りばめられており、それもまた面白い。

3 一万両の長屋

長屋の店子に慕われている大家の太吉が匕首で惨殺された。 残された一人娘は途方に暮れるが、さらに15両の借金まで出てきて、長屋の大家の株を取り上げられそうになる。

そんな折、大泥棒の夜霧ノ治郎兵衛が5年ぶりに江戸に舞い戻ってきた。 南町奉行所は総動員での探索となり、大家の殺人事件の方は見習い同心の八巻卯之吉に押し付けられる。

いつも通り都合の良い誤解が重なり、卯之吉により事件の真相が明かされていき、治郎兵衛一味は追い詰められていく。

4 御前試合

今回の鍵は名刀、豊後行平(ぶんごゆきひら)。 それを家宝に持つ鞍馬流溝口左門(みぞぐちさもん)は盗賊に盗まれてしまう。 盗賊の正体を暴き、行平を取り戻そうとする卯之吉。 いつものように、その行動は勘違いされ、切れ者同心と思われていく。 しかし、左門の一人娘で剣の達人の美鈴は、卯之吉がまったく武芸の心得がないことを見抜いてしまう。 (2022年3月12日)

5 遊里の旋風

今回の舞台は吉原。 火男ノ金左衛門(ひよつとこのきんざえもん)の一党に狙われる。

南町奉行所の内与力、沢田彦太郎が吉原で遊女殺しを疑われるところからは話は始まる。 濡れ衣を晴らしたい沢田は八巻卯之吉に吉原同心を命じるが、卯之吉はこれを良いことに吉原で放蕩三昧。

しかし、例によって、勘違いが重なり、同心八巻の名声は上がっていく。 そして、前巻で助けられた溝口美鈴は、無理やり下働きとして八巻家に転がり込んでおり、卯之助を追って吉原にも乗り込んでくる。 さらに、謎の遊び人、朔太郎も加わり、大捕物になっていく。 (2022年3月19日)

6 お化け大名

山陰地方の外様大名、玉御崎藩で出た亡霊、ゴギミンサマ(五義民様)から話が始まる。 遠く離れた吉原にいて、聞いただけでその謎を解いてしまった宇之吉を玉御崎藩主の川内美濃守興元(かわうちみののかみおきもと)は高く買う。 そして、美濃守は、江戸屋敷で起きた化け物騒動の解決を宇之吉に頼むが、前巻から宇之吉を狙う殺し屋のお峰も加担している策略は進む。 (2022年3月21日)

7 水難女難

江戸を襲った大洪水は米不足を引き起こし、江戸を不穏な空気が覆っている。 それに乗じて、宇之吉の命を狙うお峰。 (2022年3月27日)

8 刺客三人

前巻で捕まり小伝馬町の牢屋敷に収監されているお峯は、付け火による切放(きりはなち、火事の時に囚人を外に放つ仕来り)で牢を破り、市中に逃げる。 そして、山嵬坊と結託して、浪人剣客の浜田、商家の主人を装った吉兵衛、若い職人か船頭のような佐吉という3人の殺し屋を雇い、卯之吉を狙う。 (2022年3月31日)

9 卯之吉子守唄

妖怪産女のような女から赤児を託された卯之吉。 子育てに慣れない美鈴や銀八とともに悪戦苦闘する。 実は、その赤児は、江戸にやってきた神竜一家の元頭目が残した隠し金のありかを示す鍵だった。 (2022年4月3日)

10 仇討ち免状

天満屋の元締に雇われた凄腕の剣客、万里五郎助。 卯之吉の名を騙り、侍を狙った辻斬りを繰り返す。 一方、万里に兄を殺された吉永新二郎は、卯之吉を仇と狙う。 (2022年4月6日)

11 湯船盗人

ある仕舞屋(町人の住居)の湯船を盗み出してくれと頼まれた俳諧師の天竜斎が殺された。 なぜ湯船など盗むのか、なぜ殺されたのか。 そして、湯船盗人の依頼が卯之吉に舞い込む。 (2022年4月8日)

12 甲州隠密旅

前巻で卯之吉が助けた旗本の坂上権七郎は、また祖母の英照院の悪巧みで窮地に陥る。 しかし、悪巧みの一端を担ぐ白金屋庄兵衛は甲州街道を逃れてしまう。 町奉行所同心の卯之吉は墨引(すみびき)と呼ばれる境界線の外では動けない。 そこで、内与力の沢田に隠密廻り同心を命じられ、江戸の外へ向かう。 (2022年4月9日)

13 春の剣客

今回の話の中心は竹本新五郎。 竹本は剣による立身出世を目指してきたが、大和田家の大番頭、菅沼左近の策略にはまり、左近の孫の宇津木雅楽(うた)に仇と狙われる身。 このシリーズとしては珍しく左近の心情が深掘りされている。 そして、いつものように卯之吉は左近たちに勘違いされながら、騒動を納めていく。 (2022年4月10日)

14 千里眼験力比べ

前巻でまたもや卯之吉に煮湯を飲まされた天満屋の元締。 今度こそはと、上方から三人の新たな助っ人を江戸に呼び寄せた。 俳諧師のような風姿の大津屋宗龍、山伏姿の大男の金剛坊、白い肌と栗色の髪を持つ若い武士の大橋式部。 今回は宗達の練った策略に、金剛坊と式部が協力し、卯之吉を狙う。 (2022年4月11日)

15 隠密流れ旅

御蔵米を運ぶ川船が転覆した謎を探る三国屋徳右衛門。 その頼みを受け、筆頭老中の本多出雲守から隠密廻同心を拝命した卯之吉がまた江戸を離れる。

このシリーズはこれまで各巻で話は完結してきたが、今回は初めて次巻に続く。 だから、謎解きは終わっていないし、いくつかの伏線も残ったまま。

例えば、天満屋の元締めに江戸へ呼び戻されたお峰は今度はどのように卯之吉を狙うのか? 神憑きサマ一行とどう関わっているのか? 縁切寺である満徳寺に駆け込む女が異常に増えているのはなぜか? 卯之吉を見初めた満徳寺の住職、梅白尼(ばいはくに)はどう関わってくるのか? (2022年4月14日)

16 天下覆滅

このシリーズとしては珍しく前巻の続き。 しかも、本巻では終了せずに、次巻にも続く。 (2022年4月15日)

17 御用金着服

洪水に見舞われた幕府の公領を主な舞台とした3巻にまたがる話の完結。 水が引かなければ堤防の修繕もままならい。 ならば、まずは飢えた民百姓を救えと、修繕用の御用金で贅沢に炊き出しを振る舞う。

一応、15巻で撒かれた伏線はちゃんと回収される。 (2022年4月16日)

18 卯之吉江戸に還る

公領での洪水騒ぎを治めた卯之吉が久しぶりに江戸に戻って来た。 しかし、江戸では、大店の蔵への付け火が相次いでいた。 そして、なぜか江戸の砂糖が品薄になり、値段が高騰し始める。 (2022年4月17日)

19 走れ銀八

タイトルからすると今回の主役は銀八のように思わされるし、確かに出番も多いが、ニセ荒海一家の騒動の方がインパクトあり。 それにしても、卯之吉の描き方がだんだん雑になっている気がする。 (2022年4月17日)

20 海嘯千里を征く

江戸で船頭が殺された。 その謎は大阪に繋がり、卯之吉は船で大阪へ向かう。 そして、大阪では、主要な廻船問屋が江戸までの船の速さ競う新綿番船が始まろうとしていた。 (2022年4月18日)

21 お犬大明神

今回の主役は二匹の犬。 将軍が可愛がる狆(ちん)のお殊様と大店が飼っている大型犬の小房丸。 お殊様が行方不明になったことから事件が始まる。 喜んで小房丸と一緒にお殊様探しに没頭する卯之吉、その騒動に紛れて悪事を働く大阪から来た大泥棒、そして卯之吉を狙う剣客など。 幕府の権力争いに関わる大騒動が繰り広げられる。 (2022年4月19日)

22 闇の奉行

前巻で卯之吉に煮湯を飲まされた上郷備前守が北町奉行に就任した。 卯之吉の動きを封じるため、上郷は南町奉行所の筆頭同心、村田銕三を狙う。 上郷の命を受けた北町奉行所の内与力、生駒十郎兵衛(いこまじゅうろべえ)、江戸の悪党を仕切る新富町の元締こと、轡屋庄五郎(くつわやしょうごろう)、大阪の高麗橋の商人、龍涎堂治右衛門(りゅうぜんどうじえもん)は村田を料理茶屋に誘い込み、芸者殺しの濡れ衣を着せようと企む。 (2022年4月21日)

23 影武者 八巻卯之吉

先代将軍の隠し子で、現在の将軍の弟の幸千代(ゆきちよ)は卯之吉に瓜二つ。 荒唐無稽にますます拍車がかかって良い。

将軍の身の回りの世話をする重役である大奥中臈(ちゅうろう)の富士島は、次の将軍候補の幸千代が邪魔だ。 実の父親、住吉屋藤右衛門と策を練り、直参旗本で甲府勤番の坂内才蔵を引き込む。 そして、信州を荒らし回っていた浪人の佐藤篤清(さとうあつきよ)とお公家の落としだねと吹聴している清少将(せいのしょうしょう)という人斬り悪党を使い、江戸に向かう幸千代の許嫁、真琴姫を狙う。

将軍の跡目争いに加えて、江戸に流通している大量の贋小判も大きなテーマとなり、次巻に続く。 (2022年4月23日)

24 昏き道行き

今回は章ごとに話が分かれている短編集だ。

第1章では、富士島の一味が、地下に仕掛けた火薬で書院御殿を倒壊させて幸千代を殺そうとする。 いつもは脇役の同心、尾上伸平が活躍する。

第2章では、富士島の一味が、幸千代の毒殺を企む。

第3章では、富士島の一味は出て来ず、いつもは脇役の浪人、水谷弥五郎を中心に話が進む。 水谷が浪人になった経緯が明らかになる。 (2022年4月25日)

25 贋の小判に流れ星

住吉屋藤右衛門は贋小判を流通させて小判の価値を下落させ、それに伴う米相場の上昇に乗じて日本一の豪商にのし上がろうとする。 さらに、娘の富士島は、幸千代や真琴姫を拐かしを企む。 前々巻から続く、幸千代と贋小判騒動を卯之吉とその仲間が解決に導く。 (2022年4月26日)